「ふわふわ――手塚国光の不覚?――」
手塚はあまりTVなどは見ないほうである。しかしある時偶然見かけた某CMを見てからはどこかが「彼」に似ているなと思ってしまったせいでそれ以降、やたらとそのCMと「彼」が重なってしまうようになった。
<どういうことだろうか……>
冷静沈着で鉄面皮。笑ったことなどないのではないかと囁かれる男子テニス部の鬼部長こと手塚国光は、部活の真っ最中にも関わらず悩んでいた。
見た目、いつも通りに腕組みしながら練習をしている部員たちを見守っている図なのだがわかる者にはわかってしまう。
「あれは上の空に近いな」
「あ、乾もそう思う?」
「さっき菊丸がミスショットした時も桃代と海堂が諍いを起こした時も何の反応も見せなかった」
「そうだよね。英二のはともかく、桃と海堂の喧嘩はいつもの手塚だったらとっくにグラウンド10周は言い渡しているはずなんだけどなあ」
男子テニス部一のデータマンとこれまた男子テニス部一の策士はぼそぼそと話し合っている。手塚からさほど離れていないのに何も注意されない辺り、やはり手塚が上の空状態なのは明らかだった。
原因は何か?
それぞれが思考を巡らせている時、カチャンとコートの入り口ドアの開閉音がした。
「終わったっす」
「ああリョーマかい。思ったより早かったね」
「修繕する本、思ってたより少なかったみたいなんで」
「そりゃあ何よりだね」
顧問のスミレと話しているのは1年ながらレギュラーの座を勝ち取った越前リョーマである。小生意気で無愛想な挑発屋。だがしかし、ある時飼い猫と一緒の姿をレギュラー群に見られてからというものそれが弱みになってしまった。飼い猫には弱いなんて意外と可愛い姿を見てしまって、たちまちのうちにリョーマは皆の弟分な存在になっていた。リョーマも結構嫌ではないらしい。己の認めた者だけをテリトリーに引き入れる猫のように徐々に懐きはじめたところなのだ。
スミレとの会話を終わらせて手塚の方へやってきた。当然だ。部長にまずは挨拶をしなくては。
「部長、委員会の仕事終わったっす」
リョーマが言うのも当たり前の言葉。ここで当然手塚の指示が下るはずなのだが――――。
おや?と近くにいた乾と不二は思った。
「部長?」
「―――アップしたらAコートで河村とラリー。それから乾の組んだメニューに沿ってプログラムを行うように」
一瞬間のあった手塚にリョーマは思わずじっと見つめてしまった。
<あ、可愛いv>
思わず呟く乾&不二。背の低いリョーマが長身の手塚を見上げている。最近レギュラーの中で一番に懐いているといっても過言ではない手塚だからか、つい小首まで傾げてしまった。
<あ。これはもっと可愛い♪>
これには目の前の手塚も一瞬動揺したらしい。いや、と言いながら目がそらされた。声に焦りの色。
「………んじゃ、行くっす」
どこか違うけれどよくわからない。リョーマはそんな風に感じつつもとりあえずは指示された通りアップするためにコートの隅へと走っていった。
そんな後輩の姿をじっと目で追った手塚。かすかにため息までついている。ちょっと、困った、というように。
決まりだ。乾と不二はそう思った。手塚の上の空は、理由はわからないが絶対にあの子が絡んでいる!
「ふじこちゃん」
「なに?さだはるちゃん」
この二人実は小さい頃からの幼馴染だ。時々こんな風に昔の呼び名で呼び合ったりする。まあそんな時は大抵が何か画策する時の合図のようなものなのだが。
「部活終わったら4人で何か食べに行くから」
「賛成」
当然4人というのは自分たちと手塚とリョーマ。手塚は真っ直ぐ帰ると言いそうなものだがリョーマをエサにすれば何とかなるだろう。リョーマにはおごりだよ?といえば喜ぶのは確実だからノープロブレム。
「もしかしてさ。思わぬ方へ転がってるのかな」
「多分ね」
不二の問いかけに乾はすました顔で答える。見てくれはいいし頭もいい。しかもテニスの才も特上なくせに何故か彼は特定の人間を持つということをしてこなかった。これはいい機会だ。もっと手塚に人間らしい感情を持たせなければ。
「「た・の・し・み♪」」
思わずハモりながら妖しげな笑みを浮かべた二人だった。
どこが小話か?思うまま書いていったらこんな風に……?
当然乾&不二の幼馴染設定は捏造です。なんとなくちゃん付けさせたかっただけ(笑)
手塚に一番懐いている(←萌え)リョーマ。早くラブラブさせたい……。
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