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塚リョ小話 まだ途中

 

 くしゅん、とひとつ。本人同様に(と言うと怒るから面と向かっては言えないが)、かわいらしいくしゃみが腕の中からする。
「……ごめんね?」
 思わず両手で口元から鼻のあたりをを隠すその仕草と上目遣いの瞳。
 やっぱりかわいい。惚れた欲目抜きにしても、と手塚は微笑む。
 近頃は風邪が流行っているからまた心配させてはいけないと先回りしたのだろうけれど。

「もっとこっちに寄れ。その方が暖かい」

 リョ―マお気に入りの手塚家のリビングソファーの上。膝の上にコアラよろしくな格好で抱きついていたのだけれど。手塚は更にリョーマを腕の中に引き寄せる。

「……ん、あったかぁーい」

 ふふ、と笑いながらされるがまま。
 家人は外出中。手塚家の人間は一人息子同様にリョーマには甘い。きっとそれは手塚の想い人であったことも一つの理由だろうが、ハッと目を惹くというのだろう、瞬間見せられる無防備な笑みにやられた。
 一人息子は幼いころから大層大人びていて。それはそれで個性なのだけど、時として育てる側はつまらない。
 この子は大きくなってもこの鉄面皮なのかしら?
 母を筆頭に父も祖父も思ったものである。そんな矢先にやってきた、かわいい子。部の後輩です、と連れてきた時から皆何かを感じ取り、あれやこれやと世話を焼きまくり。びっくり眼ながらも嬉しそうにしているその子の脇で、柔らかく笑う一人息子を見てしまえば「ああこの子しかいない!」と内心で喜びの声をあげてしまった。将来のお嫁さんがお婿さんに代わってもいい!と心から思った―――と母から告げられたのはつい最近のこと。

 くすぐったい、とリョーマが笑う。あちこち頬や首筋やらを撫でてくる手塚にリョーマはまるで子猫のよう。嫌な相手がそんなことをしてこようものなら半殺しにでもするくらいの勢いで猫パンチが繰り出されるだろうが、誰よりも大好きで特別な相手だったら別の話。手塚の首にしがみついてもっと、と甘えてくる。
 ああ、と。わかってるからと手塚が更にリョーマを抱きしめたかと思うとそのままぐっと後ろに押し倒した。
「……ぶちょ?」
 覆い被さられながらきょとんとした眼。なんで?と言ってるのだが手塚はただ笑って。
「ぴったり密着した方が暖かいだろう?」
「……言い訳?」
 少し考えたリョーマが言うのに手塚は一瞬ふむ…、と思ったが。いや、違うな、と言い置いて。
「口実だな。せっかくの二人きりだから」
 手塚家に来ると皆から構われてそれはそれでいいことだろうけれど正直手塚は面白くなくて。それについてはやきもち焼きだね、と珍しく父にもからかわれたくらいで。もっともその後で祖父に、ひとつくらい弱みもないとな、と豪快に笑われたが。
 手塚の言い方が至極真面目なものだったのがリョーマのお気に召したらしい。深く見つめられて想われている幸せが心地いい。
「うん。そだね、せっかくの二人っきりだもん」
 

 
 

 

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